NFTマーケットプレイス『Blur』の原案を徹底解説。創業者Tieshun Roquerre氏の思考とは【独自分析】
~鯨トレーダー、インフルエンサー、UX、インセンティブ、再帰性、バイアス、正帰還ループ~
プロトレーダーのために設計され、クリプトスペースにおける最大手VC『Paradigm』によって支援されたBlurは、一強と言われたOpenSeaの牙城を崩しました。
Blurは web3/NFTsスペースにおいて、市場競争のルールを根底から破壊し、既存企業のシェアを奪い、業界の構造を劇的に変えるほどの革新的なイノベーションを起こした新しいプラットフォームであることは間違いないでしょう。
しかしTwitterなどで議論されているそのほとんどは、
『取引量』や『ロイヤリティ(クリエイターフィー及びマーケットプレイス手数料)』といった数字的なものばかりです。
このスペース全体を巻き込んだ大きな混乱を創り上げた人物は一体誰なのか、そしてどの様な人物なのか、
その人物像を知るべく、ズブズブと潜り込んでみました。
そして一人の若き天才が浮かび上がり、またBlurのネタ元となる彼自身によるブログから、その思考法が判明しました。
24歳の若き天才エンジニア兼投資家
【Tieshun Roquerre】
創業者Tieshun Roquerre氏について
彼はクリプトTwitterスペース(Twitterをよく利用するクリプトスペースの住民をこの様に呼ぶ)のネームはPacman
PFPは、日本でもよく知られる不朽の名作ゲームPacmanをそのまま採用しています
彼自身のwebサイトによると、彼は2014年の高校生時代にサンフランシスコに移住し、でEコマースサイト『Teespring』でフルタイムのエンジニアとして働いていました。
そして翌年の2015年、彼は高校を中退し、従業員の紹介を通じてテック企業のエンジニアリングチームの成長を支援するStrongIntroを共同設立しました。
StrongIntroの資金調達はY Combinator(Yコンビネーター※1)から取得しました。
その後Roquerre氏は、2016年にマサチューセッツ工科大学(MIT)に入学しますが、
2年後の2018年にNamebase(※2)を創業するためにMITを中退、
スタートアップのために500万ドルのラウンドを調達する前に、Thiel Fellowship(※3)から助成金を受けることになりました。
そして2021年、Roquerre氏は3年足らずでNamebaseをNamecheapに売却することに成功し、2022年でstealth company(※4)を立ち上げ、それがBlurであることが判明しました。
[※1:Y Combinatarとはシリコンバレーに存在するアクセラレータープログラムのこと。
アクセラレータープログラムとは、主に創業期のスタートアップに対して、資金・ノウハウ・環境的な支援を行うことで、スタートアップを加速させることを目的としたプログラム。
AirBnB、Dropbox、redditといった名だたるベンチャー企業を世に送り出した実績を持つ。]
[※2:Namebaseとは、ハンドシェイクブロックチェーンで動作するTLD(Top Level Domain: トップレベルドメイン)ドメイン売買サービスを提供している企業。
既存のDNS(Domain Name System) はインターネットを構成しているアーキテクチャ(architecture=構コンピューターシステムの基本構造)の中でも最も古いコンポーネントの1つであり、
1983年に発明されたもので、当時想像もされていなかった、インターネット上の自由や安全を脅かす脅威に対処する変更がされていない。
政府や非営利団体及び営利団体が中央集権的に管理しているため、ブロックチェーンを活かして非中央集権型を提案。所有者に真の所有権を維持するために開発されたプラットフォーム。]
[※ 3:Thiel Fellowship(ティール・フェローシップ)とは、PayPalの創業者でFacebookを含む数々の大手テック企業に投資をしてきた大物投資家のPeter Thiel(ピーター・ティール)氏が2011年に開始したプログラム。
大学を中退することを条件に、22歳未満の若者に2年間で10万ドルを投資している。
2014年にはイーサリアムの創業者のVitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)氏も名を連ねている。]
[※4:Stealth Company及びMode(ステルスカンパニー、ストレスモード)とは、言葉の通り人の目に触れない状態、察知されない状態のことで、シリコンバレーでは主に「自社のサービスや製品を外部に公表しないまま事業を進める」ことをさす。
Stealth Mode(ステルスモード)で開発を進めていき、固定ユーザーからのフィードバックを形にしながらビジネスを拡大していくのが一般的である。
Stealth Mode(ステルスモード)の利点は、
・ライバル企業にアイデアを盗まれない
・市場の育成を誰にも邪魔されることなく進められる
・世間の目を気にすることなくサービスの開発に注力できる
といったものが挙げられる。]
Roquerre氏は先日、自分がPacmanであり、身元を明かしました。
ツイートで彼は、その偽名のキャラクターをとても楽しんでいる様子を見せています。
『Blurを構築していく中で、私は擬似的なプライバシーを楽しみました。
信頼関係を築くため、あるいは雰囲気が良かったら、プライベートな通話でドッキリをすることもよくありました。
そのことは、@franklinisboredが証明してくれています。』
こう語る背景からBlurを構築していく上で、BAYC鯨でプロトレーダーであり、Blurのインセンティブポイントトップウォレットの一人、Franklin氏から何度も意見を伺っていた事が伺えます。
またRoquerre氏は、クリプトTwitterスペースでは多くの人がそうであるように、PFPのPacmanをアイデンティティとして活動を続けていくことも公表しています。
『現時点では、パックマンは私自身のアイデンティティと同義であり、IRLの名前よりも発音しやすい名前です。
これからも自分のことをパックマンと呼び、通話にはvtuberを使うつもりです。
これからもコミュニティと一緒にNFTを成長させるために、Blurを作り続けていきたいと思っています』
このように無邪気にユーモアを楽しむ一人の24歳は、
驚くべきことに、2022年10月にローンチしたばかりで、たったの5ヶ月足らずでOpenseaを追い抜くことに成功したということです。
web3スペースに混乱を招き、衝撃を与え続ける天才は、一体どのようにしてBlurのシステムを思いついたのでしょうか?
その原案となる手記を見つけました。
Blurの原案
~鯨トレーダー、インフルエンサー、UX、インセンティブ、再帰性、バイアス、正帰還ループ~
彼が重要視しているのはReflexivity=再帰性。
再帰性とは様々な分野やから捉えた意味を含みますが、例えば研究分野では、
『研究を行う研究者の考えやものの見えかたが研究にも影響する。』
という意味で使われます。
また、経済学では、
『再帰性とは市場感情の自己強化効果を指し、価格の上昇が買い手を引き付け、その行動がプロセスが持続不可能になるまで価格をさらに上昇させます。
これは正帰還ループの例です。同じプロセスが逆に機能し、価格の壊滅的な崩壊につながる可能性があります。』
という意味です。
これをより分かりやすい解釈として捉えると、
『物事にはその当事者のバイアスが影響する。
そしてそのバイアスの影響は再帰性という正帰還ループで増幅する』
ということです。
彼は手記でこのように語っています
『再帰性とは、考える参加者がいるシステムでは、参加者が考えることがシステムの行動に影響を与えるという考え方です。
人は現実に基づいて行動するのではなく、現実に対する認識に基づいて行動すると考えると、再帰性の効果はさらに顕著になります。
人々の現実認識は常に不正確で偏ったものですが、それでもその行動は社会の現実に影響を与えます。』
このようにRoquerre氏は、
社会は「現実」で動いているのではなく、大衆の思い込みという「バイアス」を介して動いているという視点を持っていることが分かります。
『再帰性の影響をあらゆる場所で測定するのは難しいかもしれません。
しかし、市場に関しては、再帰性を直接観察することができます。
株式市場は、資産の真の価格を反映しているのではなく、資産の価値に対する社会的な一般的認識(「一般的バイアス」)を反映しています。
しかし、ほとんどの人が考えていないのは、偏ったバイアスが資産の価値に影響を与え、逆に偏ったバイアスが資産の価値に影響を与える可能性があるということです。』
そして、「バイアスが具体的に可視化できるのが株式市場である」ということです。
しかし、「大衆は、バイアスが生み出している価値と、その影響力に気づいていない」と語っていることが分かります。
つまり彼は、
「大衆の思い込みで株式市場の価値は動いているため、大衆を扇動すれば価値は大きく左右する」ことを、理論立てて深く理解しています。
『市場の偏重が原資産価値に影響を与え、原資産価値の変化が偏重にフィードバックされると、市場は正のフィードバックループに陥ります。
この正帰還ループは、プラス方向にもマイナス方向にもなり、(株式市場でよく見られる)好不況のサイクルに対応する。このような背景を踏まえて、先行技術における再帰性を探ってみましょう。』
正帰還ループとは、
[出力の一部を入力にフィードバックし符号を逆にせず加算する仕組み]のことで、
入力が好況の値だったらどんどん好況に出力され、入力が不況の値だったらどんどん不況に出力されるということです。
これを、先行技術のビットコインに当てはめています
(山なりの曲線が市場の価格であり、直線が現実の価値である
という意味を記した図)
以下は、ビーニーベイビーズという90年代に世界でバブルを起こしたぬいぐるみを引用して、
ビットコインの市場価値をとても分かりやすく分析しています。
少々長いですが、とても興味深い分析でありながらストーリー性がありサクサク読めるのでご一読ください。
めんどくさい場合は、後に私の解説を記しております。
『ビーニーベイビーとビットコイン
ビーニーベビーは、再帰性の有名な例である。タイ・ワーナーがビーニー・ベビーの人気商品の「引退」を始めたとき、人工的な希少性からコレクターの需要が高まりました。
5ドルで買ったものが、流通市場では10~20ドルで売れるようになったのです。
この段階では、実勢価格(10~20ドル)は、まだ根本的な価値(5ドル)に近かったのです。
しかし、ビーニー・ベイビーの熱狂はアメリカ全土に広がり、価格はどんどん上がっていきました。100ドル、1000ドルという価格で売られるようになったのです。
このような価格から、ビーニーベイビーを投資対象として捉えるようになったのです。ピーク時には、5ドルで買ったレアアイテムが5000ドル以上で取引されることもありました。
ビーニーベイビーの場合、偏った見方が広まったものの、アイテムの根本的な価値には影響を与えませんでした(与えたとしても、アイテムの高騰に比べれば影響はごくわずかでした)。
ブームは数年続いたが、必然的にバストアップが起こった。
ビットコインの成長は、表面的にはビーニーベイビーのように見えるかもしれませんが、ビーニーベイビーにはなかったビットコインの根本的な価値を支えるユースケースがいくつもあります。
ビットコインは投資でありながら、自己主権的なお金でもあります。
24時間365日、擬似的に大量のビットコインを最小限の手数料で送金することができます。
しかも、ビットコインのコミュニティは最近、ビットコインを別名デジタルゴールドと呼ばれる価値貯蔵品として位置づけています。
ビットコインがデジタルゴールドであると人々が認識する限り、ビットコインの基礎的な価値はデジタルゴールドのものとなるのです。
再帰性の行動です。
このことは、人々がビットコインをデジタルゴールドとして信じることをやめた場合、反射性が逆方向に働き、ビットコインを死のスパイラルに導く可能性があることを意味する。
再帰性に照らして、根本的な価値を支えるために市場の位置を変えるというアイデアは興味深いものです。
もしビーニーベイビーがアートワークとして、あるいは価値貯蔵品として再配置されたなら、その価格と同じように根本的な価値が高まっただろうか。
ビーニー・ベイビーズは人工的に希少性を持たせたもので、アートとしては成立しないので、その可能性は低いと思いますが、面白いアイデアですね。』
いかがでしょうか?
このように彼は、
ビーニーベイビーズの価値は希少性という「バイアス」によって価格が上昇し、正帰還ループによってバブルが起こったと分析しており、
ビットコインは更に【デジタルゴールド】というクリプトOGたちが植え付けた思い込みと、様々なユースケースが含まれているために、ビーニーベイビーズよりも更に強い正帰還ループにはまったと捉えています。
しかしその【デジタルゴールド】というバイアスが消えてしまうと、正帰還ループが好況から不況に変わり、つまり暴落すると...
ここまでを踏まえて、彼のBlur戦略を分析します。
先述した通り、彼はNFT市場におけるBAYC鯨でありプロトレーダー、インフルエンサーのFlankや、その他トレーダーと意見交換をしています。
また彼は、自身でもOpenseaでNFTトレードをしており、NFT市場の価値がどの様に動いているか深く理解しており、またOpenseaのfloor priceの反映や売買実行の遅さというUXに不満を抱いていました。
ポイントとして
NFT市場は鯨ウォレットの取引と、インフルエンサーの煽りという「バイアス」が大きく働き、値動きが決まっている
トレーダーが使いやすいUXが重要
そして更に彼が重要視している再帰性をはめ込むと、
$BLURトークンというインセンティブを付与することで、正帰還ループが働き、ユーザーの取引量が増幅する
という事です。
また彼は、他の手記でもBlurの原案となる市場の分析を、このように記しています。
『規模を拡大する前に、小さくても熱心なコミュニティという「白熱炭」を確立する。
文化の構築には多くの手作業が必要であり、単にお金を投じるだけで解決できる問題ではありません。
むしろ、多くの資金と多くの聴衆を持つことは、特定の文化を形成することを困難にするノイズを生み出すため、阻害要因になる可能性さえあります。』
『もし私がゼロから新しいコンテンツ・コミュニティを立ち上げるとしたら、こんなプレイブックを使うでしょう。
アプリをデザインする前に、広範でグローバルな競争力のある製品調査を実施する。最高の機能をコピーする
最初に注力するニッチなコミュニティを選ぶ
既存の競合他社や他の社会的/物理的ネットワークからコンテンツクリエイターを募集する。
消費者側が一人前になるまで、コンテンツを作ってくれるような王族的な扱いをする。
もっと見たいと思う良いコンテンツに手動でハイライトを当て、報酬を与える。
リミックスや共有ミームを利用して、そのコンテンツの創作を増やす
既存のソーシャルネットワークを活用してコンテンツを配信し、バイラリティを生み出す機会を模索する。
そして、パーソナライゼーションを向上させ、垂直方向に拡大することで、フライホイールに栄養を与えます。アンディ・ジョーンズは、これを行うための良いフレームワークを用意しています。』
これをNFT市場に当てはめると
鯨でプロトレーダーというニッチなユーザーを取り込む
鯨プロトレーダーを王族のように扱う
鯨プロトレーダーでありインフルエンサーの彼らが喜んで煽る
鯨トレーダーのウォレットやツイートを観察する層が少しずつ注目する
$BLURトークンインセンティブという正帰還ループで、ユーザー数と取引量が爆発的に増幅する
といった戦略です。
Blurの創業者は、数年間に及ぶ知識と経験をもって深い分析からBlur構想を生み出し、
冬相場で稼ぎに飢えてるタイミング見計らってweb3スペースを混乱、熱狂させたのです。
この天才ぶりには驚愕であり、私は興奮を隠せません。
いかがでしょうか?
皆さんはどう思われますか?
多くの気づきと学びがあったのではないでしょうか。
とてもおもしろかった、学びになったと思ったら、
ぜひ当記事の拡散をよろしくお願いします。
次回はParadigmやインフルエンサービジネスとの深い関係性を書きます。無料なので気が乗れば(笑)
最後まで読んでいただきありがとうございました:)
参考